民法が改正されることが平成29年5月26日に決定し、同年6月2日に公布されました。
公布から3年以内に施行されることになっています。

 

民法は明治時代に制定され、その後、家族法分野の全面改正や、その他部分的な改正がこれまでも数回なされてきましたが、債権部分の抜本的な改正は今回初めてになります。

 

そもそも民法というのはどういう法律かというと、私たちの日常の社会生活を営むためのルールを定めた法律です。

民法は、大きく分けて次の5つのパートで編成されています。
「総則」「物権」「債権」「親族」「相続」です。

「総則」は、民法の基本的なルールが定められています。
「物権」は、所有権をはじめとする「物」に対する権利が定められています。(他には地上権、地役権、抵当権等があります。)
「債権」は、主に契約による人と人との約束事についてのルールが定められています。
「親族」と「相続」は、まとめて「家族法」と呼ばれますが、婚姻・親子関係や、遺言・相続のことなど、家族についてのルールです。

 

ところで、今回の民法改正はどこが変わるのかというと、上記の「総則」と「債権」の中で、契約に関するルールを中心に、人と人の間に生じる権利に関する部分が大きく変わります。

 

まずは、今回、民法を改正する目的、理由について考えてみます。

民法の原型は、明治29年(1896年)にできました。
これまでも、最初はカタカナだったものをひらがなにして読みやすくするなどの改正は、数回なされてきましたが、それでも、時代に合わない部分、読みにくい部分も多々あることは指摘されてきました。

そこで、一つ目には、時代に合わない部分を、時代に合わせようというのが大きな目的の一つです。
たとえば、インターネットが発達した現在では、買主と売主が顔も合わせず売買がなされることも珍しくなく、取引内容も複雑になり、「約款」を利用した契約も少なくありません。これまでの民法には「約款」についてのルールそのものは存在しません。

二つ目として、これまでの民法の条文が分かりにくかったので、もっと分かりやすいものにしようということです。

こうした考えで、法律が、多くの人にとって読みやすい、分かりやすいものになることは、喜ばしいことです。

 

さて、それでは、改正民法は、これまでの民法とどの辺が変わるのか、ということについて、代表的なものをいくつかピックアップして簡単に説明します。

 

◆「定型約款」についての規定
定型約款はどういう場合に契約内容になるのか、について定められます。
これについては、
・取引の当事者が、定型約款を契約内容とする旨の合意をしたとき
・定型約款を準備した者が、相手方に、あらかじめその定型約款を契約内容とする旨の表示をしていたとき
に、原則として定型約款が契約内容になるということになります。
※ただし、定型約款の条項内に、相手の権利を制限したり義務を重くする条項で社会通念上信義誠実原則に反するようなもの、相手の利益を一方的に害するものなどは、契約内容にはならないものとして、相手方の保護が図られています。

 

◆法定利率
これまでの民法が定める法定利率は、5%の固定制です。改正後は当初の法定利率を年3%とした上で、3年ごとに見直す変動制に変わります。

 

◆個人保証の制限
事業用のお金の借入れ等について、個人が保証人になるときは、一定の場合を除いて、契約締結の前1か月以内に、あらかじめ公正証書を作成しなければならなくなりました。
これに対しては、事業用の借入れが簡単にできなくなるという批判もありますが、情誼に基づく安易な保証を防ぐことにつながりますので、保証人の保護がより図られているといえるでしょう。

 

◆根保証債務
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約のことを根保証契約といいます。
これまで、お金の貸し借りを保証する根保証契約については、保証する上限額(極度額といいます)を定めなければ契約は無効になると定められておりました。また、一定の事実があったときに保証人が弁済の義務を負う額を確定(元本確定といいます)させることが定められていました。
ところで、この根保証契約には、たとえばアパートの賃貸借の保証や、商売上の仕入れについての買掛金支払いを保証するものなど、お金の貸し借り以外の保証も多くあります。
そこで、改正民法では、個人を対象とするすべての根保証契約について、極度額の定めをしなければ無効であることを定めると同時に、元本確定事由も拡張して、根保証契約の保護が図られます。

 

◆建物の賃貸借における敷金や原状回復費について
改正民法では、これまで明文規定がなかった敷金の性質や返還時期の明確化が図られます。
賃貸人の修繕義務の範囲として、賃借人の責任以外で壊れたものは、賃貸人が修繕義務を負うことが明文化されます。
賃借人の修繕権として、必要な修繕は賃借人が行えること、必要費であれば賃貸人に請求可能なことが明文化されます。
原状回復義務については、賃借人の責任で生じた損耗以外は、原状回復義務はないのが原則となります。(特約で例外を設けることは禁じられていません。)